今年はデング熱が大流行しました。日本では約70年振りに確認され、2014年8月27日から9月22日のおよそ1か月の間にデング熱の感染者が142人にも及びました。その媒介者として蚊が注目されています。蚊はウイルスに感染した患者の血を吸い、蚊の体内でウイルスを増殖させ、その蚊が他者の血を吸う事でウイルスが感染してしまうのです。
人間は蚊に吸われる事が多く、感染被害は尋常ではありません。「蚊なんていなくなってしまえばいい!」と思ってらっしゃる方も少なくないはずです。しかし、蚊がいなくなる事で人間にも影響を与えてしまう可能性があるかもしれないのです。
蚊の生態 知られざる特徴
血を吸うメス蚊には要注意!
実は血を吸うのはメスの蚊だけという事をご存知ですか?メス蚊は産卵の為の栄養分を必要としているからで、オス蚊は樹液や花の蜜を吸って生きています。産卵の時期以外になると、メスは血を吸わなくなりオス同様に蜜等を吸うようになるのです。日本に蚊は約100種類生息しており、そのうち人を刺すのは30種類程で、中でもイエカ属とヤブカ属に大きく分かれます。
蚊は室内でも繁殖する!!
蚊の幼虫であるボウフラですが、屋外のバケツや小さな池等でよく見られ、屋外にいるイメージがある方もいますが、実はヤブカ等は家庭の台所の排水溝やお風呂等にも卵を産む事があります。1ccのわずかな水であっても数匹は孵化するので、ご家庭の水回りは乾拭きをして濡れたままにしないようにしましょう。
実は蚊は冬を越す!!
夏によくいる虫というイメージがある蚊が、冬を越せない生き物だと多くの方が思っていらっしゃいますが、日本で生息しているイエカは成虫で冬を越す事が出来てしまうのです。寒くなって来ると、蚊は活動せずに落ち葉の下等でじっとしている事で冬にはいなくなったと感じるのです。
また、1番夏の季節に蚊に刺されると思われがちですが、実は春や秋の方が刺されやすく、蚊の活動が活発になる適温は、アカイエカは25℃、ヒトスジシマカでは25~30℃とされています。しかし、アカイエカは30℃、ヒトスジシマカは35℃を超えると死ぬ可能性があります。近年では、最高気温35℃前後が当たり前になってきている日本では真夏に刺されるリスクが特に高いという訳ではありません。
夜間は吸血蚊の活動時間
イエカは寝る時や寝ている時に人を悩ませる蚊です。主に活動場所は屋内で、活動時間は日が落ちてから日が昇るまでの夕方から夜間とされています。血を吸う対象が近くにいないと遠く離れた場所であっても飛んでいき屋内に侵入してきます。
一方でヤブカは屋外で活動しており、昼間の明るいうちに活発で夜になると動きが鈍くなります。また、イエカと違い遠く離れた場所に移動する事はなく、血を吸う対象が近寄ってくるのを待ち構えて刺してきます。蚊は夜吸ってくる事が多い事が分ります。
人類vs蚊 人間を殺している生物1位はなんと!!
人間を最も死に至らしめる生物は蚊と人間
WHO(世界保険機構)のデータ等を元に、ビル・ゲイツ氏が自身のブログ上(*1)に人間を死に至らしめる生物のランキングの図を掲載しました。1年間で最も人間を殺している生物が実は蚊なのです。蚊は年間約72万人、人間を死に至らしめていて人間の最大の敵は蚊です。2位は人間です。人間が2位だなんて悲しい事実ですよね。3位はヘビで4位は犬(狂犬病)と続いております。
蚊が媒介する危険なウイルス マラリア・日本脳炎・デング熱
蚊がこんなにも人を死に至らしめている主な原因として病気を媒介している為です。今年日本でも大流行したデング熱を始めとするマラリア・日本脳炎等が挙げられます。
デング熱に感染してしまうと、発熱や頭痛、筋肉痛や皮膚の発疹等の症状がみられます。蚊が媒介して感染しますが、人から人に直接感染するような事はありません(*2)。また、熱帯や亜熱帯の全域で流行しており、東南アジアや南アジア・中南米で患者の報告が多くみられますが、アフリカ等の南太平洋の島でも発生しています。
主に媒介する蚊はネッタイシマカと呼ばれるヤブカ属の蚊ですが、日本には生息していません。しかし、今回は日本でも流行し、ヒトスジシマカと呼ばれるヤブカ属の蚊が媒介しているという事です。秋田県・岩手県以南に生息しており、代々木公園周辺を始めとする東京都内や千葉県・兵庫県等の様々な地域で2014年10月15日現在も感染している方がいらっしゃいます(*3)。
マラリアもハマダラカというハマダラカ属の蚊でマラリア蚊と呼ばれる事もある蚊が原因です。主に日が落ちてから夜明けまでの夜間に人を刺します。
WHOの発表(*4)によると、2012年のマラリアによる世界の年間死者数は約62万7000人となっています。死者の多くはアフリカのサハラ砂漠以南の地域に住む5歳未満の子どもたちです。日本でも2010年には76例報告されておりますが、日本国内での感染例は無く、アフリカや東南アジアの流行地域で感染した人が日本へ帰国した後に発症するという輸入マラリアに限定されています。
日本でもあった!蚊が媒介した病気!
かつて日本でもコガタアカイエカという蚊によって感染する日本脳炎が流行っており、1960年代まで年間1,000人を超えるほどの感染症でした(*5)。しかし、ワクチンの普及や生活環境の改善による媒介となる蚊の減少等により1970年以降は年間100人以下の報告数となりました。
また、日本脳炎は人から人への感染はなく、ウイルスの持つ蚊に刺され感染しても日本脳炎を発症するのは100~1,000人に1人程度とも言われております。大多数は無症状に終わりますが、特異的な治療法は無く脳炎を発症した場合、20~40%が死に至る病気といわれている危険な病気です。日本脳炎ウイルスは人間や馬・豚や鳥等に感染しますが、脳炎を起こすのは人間と馬だけと言われています。しかし、人間の病気には自らは感染しない豚が大きく関係してきます。
なんとしてでも蚊を絶滅させたい!人間と蚊の終わりなき戦い
幾度となく繰り広げられてきた戦いの記憶
デング熱等が流行ると予防の為に殺虫剤を撒きます。しかし、現在最も普及している「DEET(ジエチルトルアミド)」という虫除け成分が効かない蚊が出現していて、その遺伝属性は子孫にも受け継がれる事が判明したのです。デング熱を媒介するネッタイシマカが遺伝子の変異によって、蚊の触角にある感覚細胞がDEETを感知しなくなってしまったのです。
遂に発見!人類が遺伝子操作で蚊を絶滅へ!
英ロンドン大等の研究チーム(*6)は蚊の遺伝子にメスが生まれてくるのに必要なX染色体が正常に働かなくなる遺伝子を組み込んだ結果、通常ならば生まれてくる蚊の比率がオスメス50%ずつなのに対し遺伝子操作を行ったところ、オスが95%を占めるようになったのです。
遺伝子組み換えを行ったオス50匹と通常のメス50匹をケースの中で飼育したところ世代交代と共に徐々にメスの数が減少していき、やがて繁殖出来なくなり6世代以内に全滅したとされています。
蚊の全滅は人類絶滅へのカウントダウン!?
蚊がいなくなった世界は素晴らしいものか?
病原体を媒介する蚊が絶滅したこの世界は素晴らしいものだと考えられます。日本脳炎やデング熱、マラリアに恐れる必要が無くなる生活が来るのです。マラリア患者数は2012年に約2億700万人と言われており、蚊がいなくなる事で年間でこれだけの方が感染せずに済みます。また、上記で記載したビル・ゲイツ氏のランキングも変わってくると言えます。
しかし、人間が1位になってしまうのも何とも言えない気持ちになりますよね。
水を浄化する!ボウフラの意外な役割
しかし、自然界において蚊はとても重要な役割を果たしていました!
蚊の幼虫のボウフラですが、水中の有機物を分解し、バクテリアを食べてくれます。バクテリアもボウフラ同様に水中の有機物を分解してくれるのですが、バクテリアの場合は排泄物で水を汚してしまう上に、増えすぎる事で水中の酸素が無くなり、他の生物が住めなくなってしまう事があります。しかし、ボウフラはそのバクテリアを食べますし、呼吸は空気中から行うので水を浄化しながら生物が住める環境を作ってくれていました。
植物の受粉を助けるオス蚊の重要性
メスの蚊は産卵の時に人の血を吸いますが、オスの蚊は花の蜜を吸って生きており、植物の受粉の手助けをしているのです。このため、蚊がいなくなる事で熱帯においてはカカオの様な植物が受粉できずに死滅してしまい、今後チョコレートが食べられなくなってしまう恐れがあります。カカオチョコレートが食べれなくなるなんて嫌ですよね。
蚊の絶滅で狂う食物連鎖
食物連鎖の下位にいる蚊がいなくなる事で、蚊を食料としていた生物たちにも影響を与えます。蚊を食べる生物にはトンボがいます。幼虫のヤゴの時期から蚊の幼虫であるボウフラを食べ、成虫になると蚊をエサにします。
蚊が絶滅してしまう事でトンボも絶滅し、トンボをエサとしているカエル等の両生類にも影響が出る事が考えられます。さらに、カエルを捕食する鳥や小動物等の生態系にも影響を及ぼしてしまうのです。
蚊の死滅で食物連鎖の頂点の人間にも影響が出る
蚊の絶滅は、人間にも悪い影響を与えると考えられます。一度崩れたバランスは戻しようが無くなります。紀元前にはプランクトンの絶滅で、食物連鎖の土台が崩れ、恐竜等の生物が絶滅したという事も言われています。万が一、プランクトン同様に蚊が絶滅したら人間の絶滅にも影響を与え兼ねないという事が言われています。
今回のデング熱の報道により、各地では大量に殺虫剤がまかれ、店頭からも殺虫剤や虫除けスプレー等の商品が飛ぶように売れたといいます。しかし、それらには神経毒性や発がん性の危険性があります。殺虫剤の危険性につきましてはこちらの記事をご覧ください。(殺虫剤で人類滅亡!?耐性生物出現とポリネーター絶滅の危険性)
蚊がいなくなる事で、多くの命を救う事が可能と考えられますが、その反面、人類の存続の危機さえも危ぶむ事になってしまいます。非常に難しい問題ですが、夜間や草木の多い場所に出掛ける際には長袖を着用しましょう。また、麻で作られた蚊帳を使用する事で蚊に悩まされずに夜を過ごす事が可能です。
そして、人体や環境に危険性の高い殺虫剤を使用せずに、ラベンダー等を使用した手作りの虫除けアロマスプレーが安全でお薦めです。作り方はこちらになります。(安全で簡単な手作り虫除けスプレーまとめ)
そして、蚊から身を守る対策方法もありますので、こちらもご覧ください。(安全に蚊から身を守る簡単対策方法)
これらを上手に活用し、安全な「蚊」対策を行ってみてください。
*1『ビル・ゲイツ氏のブログ』
http://www.gatesnotes.com/Health/Most-Lethal-Animal-Mosquito-Week
*2『厚生労働省│デング熱』
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-19.html
*3『厚生労働省│デング熱の国内感染事例の発生状況について』
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dengue_fever_jirei.html
*4『稀少専家│デング熱の国内感染事例の発生状況について』
http://kishosenka.jp/medical/malaria/about_001.html
*5『病気検索WEBクリニック│日本脳炎』
http://www.bk-webclinic.com/kg/child/noen.html
*6『livedoorNEWS│マラリア対策で蚊を遺伝子操作、子孫の95%雄に 英研究』
http://news.livedoor.com/article/detail/8924689/
『しらべぇ│【デング熱】で敵視される蚊…この世から蚊がいなくなったらどうなるのか?』
『秒刊SUNDAY│恐るべき「殺人蚊」!年間72万人殺す地球上で最も人間を殺す生き物』
『exciteニュース│マラリア対策で蚊を遺伝子操作、子孫の95%雄に 英研究』
http://www.excite.co.jp/News/bit/E1411716943762.html
『msn産経ニュース│生物大量絶滅、巨大隕石の衝突後の酸性雨が原因 千葉工大など英科学誌の電子版に発表』
http://sankei.jp.msn.com/science/news/140310/scn1403101210
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